何もしなかった日本──「事件」の予兆
「そうじゃ、このパソエンを使うて、細川さんに似合う最新流行の服を選ぼう。そして明朝、足川さんと一緒に全人代常務委員長らにお会いになるまでに新調させようじゃないか。ファッション好きの足川さんもびっくりするだろうが」
織田は独り決めでどんどんことを進め出した。
「全人代常務委員長との会談は午前十一時だよな。それなら間に合う、丹羽君、あのチャーリー・チャンの店に電話して、あと一時間したら特注をインターネットに入れるから、明日の午前十時までにここへ持って来い、といっといてくれ」 (第49回)
パソエン・・・・・・ブルーバック合成マシンには、一人芝居の他にファッション・コーディネート・シミュレーターとしての機能もあるらしい。そんなの、本物使った方が絶対に早いだろう。「特注をインターネットに入れる」というのは、いかなる作業を言うのであろうか? てなこと考えている間にデザイン選びは終わり・・・
ふん、それでいい。それをそのままチャーリー・チャンの店のインターネットに流してくれ。(第50回)
ウチの社長が「我が社もそろそろインターネットを構築しなければいけない」と大演説をぶってお笑い種になったのだが、大阪21世紀協会の代表幹事(だかなんだか知らないが)も同じ感覚かよ。「チャーリー・チャンの店のインターネットに」という言い方がどれだけ可笑しいか、例えばチャーリー・チャンの店の当座預金口座を指して、「チャーリー・チャンの店の銀行」と言っているようなものだ。
何もしなかった日本──妹・市子の場合
木下は、今もまた、大勢に取り囲まれて様々な指図判断を下しているであろう織田信介の姿を想像しながらベッドに転がった。と、脇(わき) のメッセージ・ファクスに赤い灯が光っているのが見えた。
「何事か……」
木下が暗証番号の「六〇一」を押すと、短いメッセージを書いた紙片が吐き出されてきた。 (第55回)
舞台はホテルの個室。要は伝言メモがファックスになったと言いたいのだろうが、ファクシミリほど21世紀まで生き残りそうにない情報機器もないのではないかと思う。詳しくは後に触れるが。
とりあえずここでつっこんでおきたいのは・・・・・・「留守電の方が早いやろ?」
団塊の故郷──明治百五十年八月
木下は十分ほどで雑用を済ますと、コンピューターの「行き先」欄に「ナポレオン」と打ち込んで部屋を出た。(第62回)
伝言板スクリーン・セーバーか?
「そらよかった。近頃(ごろ)のニックス・カフェって、よくできてるからね」
木下和夫は、運ばれて来たカレーライスを掻(か)き混ぜながら、父にいった。
「そうだよ、俺(おれ)も驚いたね。これぐらいのところにパソコンやDVDプレーヤーからファクス、テレビ電話、複写機まで全部入ってるんだか ら」
昭夫は両手で五十センチほどの幅を示していた。
ニックス・カフェはフリーの営業マンや派遣社員など、短期雇用の外勤者の増加に伴って拡(ひろ)まった店舗形態だ。昭夫がいう通り、電子 事務機を揃(そろ)えたデスクが並び、コーヒーなどを出す。 (第64回)
インターネット・カフェの平成三十年仕様か、ニックス・カフェ。DVDプレーヤーもファクスもテレビ電話も、パソコンがあれば要らないものばかりだ。狭いスペースなんだから有効に使って欲しい。
クレジット・カードを押 し込んでおけば、一時間千円の席料から通信費や飲食代まで、自動的に支払われる。 (第64回)
同じくニックス・カフェの利用方法に関する説明。クレジット・カード決済は良いが、「押し込んで」おかなければならないというのは、セキュリティとしてどうなのか? 最後にカード・スロットを通せば済むはずの現在の技術も、20年を経て絶滅してしまったらしい。
団塊の故郷──夏の腐臭
携帯用の電話やパソコンの普及は、家族の共同体性を一段と稀薄(きはく)にした。木下も妻や娘が長い電話をしているのをよく見るが、通 話の相手が誰だかほとんど知らない。十年ぐらい前までは、一家に一台のファクスに貯(たま)る通信文で交遊相手を知ることもあったが、今 はそれぞれの携帯用パソコンにEメールが入る。互いに隠すわけではなくても、自然と家族の交際相手を知り合う機会が少なくなった。
平美も十七歳の娘の交友相手をよくは知らない。パソコンの交信相手になると、どこの国のどんな人物か、本人にも分からないことがある。 (第70回)
「それぞれの携帯用パソコンにEメールが入る」、「パソコンの交信相手」・・・・・・インターネットをハムか何かと勘違いしている気がするのだが、実際のところはどうなのだろうか・・・・・・。
「はいー、調査課長です」
木下和夫は、電話機の内線ボタンを押して受話器を取り上げると、勢いよく答えた。目の前のコンピューター画面には、木下が発注した航空 券、八月十五日羽田発出雲行きの初発便二枚の予約ができたことを示す緑灯が点滅している。 (第71回)
木下和夫は産業情報省の調査課長と聞いていたが、そのデスクにはJALの発券専用機でも置いてあるのか? 席が取れたことを示す・・・って、どんなオンライン予約やねん?
団塊の故郷──山の緑
「兄貴は新幹線で尾道から来たけど(第75回)
行き先は広島・・・ということは山陽新幹線だな・・・・・・で、リニア化はまだなのか?
この頃(ごろ)の高校生は「すっごい」と「ひっどい」と「かわいい」と「こわい」しか言葉を知らないというが、(第77回)
作者の若者観は、こういう偏見に貫かれている。「チャット」って言葉も知らないくせに。
団塊の故郷──山中団地
「やあだ。サマー・ジンベイですよ。クリスティ・コラソンの……」
と、膨れっ面を横に振った。その脇(わき)から文彦が、
「今、大流行の夏用甚兵衛。タイ・シルクの高級ブランドだよ、クリスティ・コラソンというのは」
と解説してくれた。 (第82回)
何が流行ったって全然構わないが、このエピソードが書かれた頃(推定)、「今、若者の間でステテコが大人気」というニュースがNHKかどこかでやっていた。
「新宅の健太はアイデアマンやから、郵便局で何でも引き受けてくれる。テレビ電話やインターネットを掛けてくれるだけやなしに、(第88回)
インターネットがちゃんと普及していれば、テレビ電話なんか要らない・・・というのもあるが、「インターネットを掛けてくれる」という表現は、ちょっと想像を絶する。
夢現の狭間(はざま)──バーチャル・ガバメント(仮想政府)
「先月はインターネット・マージャンの成績悪かったのよ」
各人がコンピューターの援(たす)けを受けて、見えざる相手と対戦するインターネット・マージャンは、アジア全域に拡(ひろ)がるニューギャ ンブルである。 (第99回)
率直に言って、この「バーチャル・ガバメント」の章は読み込んでしまった。別に全てをバカにしようというわけではないのだ、私は。だが、こんなキッチリした部分にも、最後にちゃんとお笑いを残してくれるのは、さすが堺屋先生である。
インターネット・マージャンは、今でもちゃんとあります。