岐路 男の香り

 「その代わり通信料金が大変だよ。成子(せいこ)のインターネット代だけでも月十万はかかるよ」

 木下はそういったあとで、ポツリと付け加えた。

 「公務員宿舎にはデジタル回線なんてないからね」(第300回)

 木下娘はQ2回線でインターネットに接続しているのか? 通信費用なんか、限りなくタダに近づいていくのが現在の傾向だろう? まさかと思うが「海外のインターネット仲間と交信」しているから高くつくという話ではないだろうな。NTTも管轄しているのだろう産業情報省の役人の発言として、「公務員宿舎にはデジタル回線なんてない」はないだろう。なければ自分で引けばいいじゃん。

市子は黙ってテーブルの端のコンピューターの電源を入れた。ニュースの内容を説明する代わりに、 テレビ局のインターネットを見せようというわけだ。

 三メガのデジタル回線が入っているだけあって、映像の出るのは早い。一分間ほどの間に市子が五、六回、キーボードに触る と、テレビ局の「今日のニュース」のページが開いた。(第301回)

 「テレビ局のインターネット」相変わらずやなぁ、堺屋ちゃん。で、ブラウザもキーボード操作に逆戻りかいな。

 「音声、出す……」

 ニュース画面を映し出した市子が、マウスを握ったまま、木下和夫に訊(たず)ねた。写真と文章だけの静止画なら番組宣伝用 で無料だが、音声と動画を伴うマルチメディアにすると一分間百円の料金がかかる。 (第302回)

 おいおい、何時の間にマウスを握っていたのか、市子ちゃんは。例によって訳の分からん課金システムだが(VTXかね?)、「音声と動画を伴うマルチメディア」という表現が、親父以外は普通使わない。100円/分・・・ツーショット・ダイヤルなみの高額だ。K−1のPPVあたりと比較しても、高すぎるとは思わないか?


岐路 「明日の形」

仕方なく木下は六階に上がり、割り当てられた六一二号室のドアの前に立 ち、脇(わき)の手形印に右手を当てた。鍵(かぎ)が開き中に入ると、途端に織田信介の声がした。

 「よく来てくれました。最初に打ち合わせをするとみな同じ方向に引きずられるので、まず各自の改革案の骨子を書いてみて欲 しいのです」

 ドアの開閉に連動して音声の出る仕掛けだ。

 「その上で、午後四時から意見交換をします。この部屋の施設や利用法や資料については、書斎のコンピューターの画面にも表 示されています」

 「へえ、まるでSF映画だな……」 (第317回)

 そのSF映画というのは『宇宙大作戦』のことかね。ネットワーク上の認証に無頓着だった上に、入退出のセキュリティが「手形認識」というのが恐れ入る。「ドアの開閉に連動して音声の出る仕掛け」って、冷蔵庫の室内灯でもあるまいに。出入りするたんびに織田ちゃんがゴチャゴチャ言うのか、六一二号室では。

 今の木下は、豪華な部屋で、参考文献もあればコンピューター通信もテレビ電話も繋(つな)がっている。だが、誰(だれ)が どこに居て何をしているのか分からぬ静けさは、集団で仕事をするのに慣れた身には不安だ。

 木下はせめて居室の分かる石田光男と話してみようと思ったが、四〇二号室の電話番号が分からず、携帯電話も電波遮断のせい か繋がらない。(第318回)

 まるで『未来世紀ブラジル』ですな。レンタルビデオで見たのか、堺屋ちゃん。「携帯電話も電波遮断のせいで」・・・じゃ、ドアか窓開ければ? E-mailで連絡を取るという手段も当然あるわけだが、産業情報省においてある、自分専用のデスクトップのメールボックスを開けなければ読めないと信じきっている木下ちゃんには、そういう手段は思い付かないのであった。

 木下は、コンピューター画面に現れた「木枯らし政策」の表題の五項目を読んで

 「親父(おやじ)たちの研究会の要望事項とほぼ同じだな」

 と独り呟(つぶや)いた。説明の丁寧さ、数字の正確さ、表現の巧妙さでは、プロの手の入った足川政策の方ができがよい。そ の上、これには

 「公務員の数と財政支出と税金を一割削減する」

 という魅力的な施策が付いている。父の昭夫らの提言が優れているのは、高齢者の本音が滲(にじ)み出している「人間らし さ」だ。

 「ま、誰が考えても同じなんだ。大体は二十年も前からある議論なんだから……」 (第318回)

 ・・・っていうか、足川「木枯らし政策」はDVDで一般発売されたんだろ? 後から考えた木下パパが同じことを言って何の不思議が?

「コンピューターやワープロでお書きになった方はそのままで事務局に繋(つな)がります。手書きの方はファックスで1番に お送り下さい。手書き入力装置でデジタル化します。途中でも結構です」 (第319回)

 「そのままで事務局に繋がる」とは何か? また「コンピューター」と「ワープロ」とは違うのか? 「手書き入力装置でデジタル化」というのも、さっぱりわからん。

 「みなさんの案を順次画面に映しますので、お読み下さい。プリントアウトもいたしますのでどうぞ」 (第319回)

 プリントアウトぐらい、自分でさせてくれ。

木下の提言は全体の平均値、新味は乏しいが非難されるようなところ もない。木下が中学生の頃(ころ)に流行した「赤信号、一緒に渡れば怖くない」である。(第319回)

 先生、意味違うと思います、それ。

 それぞれがマンションのユニットに篭(こ)もり、コンピューターを通じて討議をする奇妙な政策創(づく)りは、翌日曜日も 午前十時から午後十一時まで続いた。

 拘束されているわけではないが、次々に入る数字や映像の資料と様々な意見に興味が尽きず席を立つ間もない。中には、差し入 れの酒肴(しゅこう)に酔っぱらったような暴論が入るが、それさえもが無感情な合成音に変えて語られるので、つい聞いてしま う。 (第321回)

 え? 「コンピュータを通じて討議」・・・って、打ち込んだ文章をコンピュータが読み上げてんの?

 木下自身も、ほとんどの時間を国会裏のマンションに繋(つな)いだコンピューターに向かっていた。(第321回)

 「国会裏のマンションに繋いだコンピューター」・・・って何? どういうこと?


岐路 戦いの太鼓

 「日本の歴史では、奈良時代、平安時代、鎌倉時代、室町時代、安土桃山時代、江戸時代、そして今、東京時代。すべて首都機 能の所在地で呼ばれている。つまり首都機能の移転のたびに時代は変わったが、首都機能が移転しない限り時代は変わらなかっ た」 (第328回)

 暴論やなぁ。例えば平安時代、初期の桓武天皇親政時代と、藤原時代、末期の平家台頭時代と400年間「時代は変わらなかった」とでも? 首都機能の移転によって便宜的に時代を呼び変えているだけやんか。「東京時代」とやらも、昭和20年を境に大きく変わっているのではないか? ちなみに「すべて首都機能の所在地で呼ばれている」と言うが、安土桃山時代に首都機能を果たしていたのは「大坂」では?


岐路 外圧内抗

 「分かった分かった。じゃあ明朝いっとくから、お義父さんの診断書をファックスしてくれますか」

 「分かりました、今夜のうちに……」

 木下はそういったものの、電話を切ってからはたと困った。木下家のファックス機では厚紙の表紙のついた診断書が通らない。

 「うちにコピー機があるから、それで写してファックスすれば……」

 そういったのは小学校三年生の神谷甚一だった。(第334回)

 コピー機なんか、近所のコンビニに置いてありそうなものだし、娘の成子の部屋に行けば、スキャナくらい置いてあるんじゃないのか?

背広に着替え、電子手帳とネクタイをポ ケットに入れ、パソコンと携帯電話と十枚ほどのフロッピーと何種類かの書類の入ったアタッシェ・ケースを抱えた。(第335回)

 「電子手帳」と「パソコン」を、何故一緒に持ち歩かねばならないのかも疑問なら、それ以上に不思議なことは「10枚ほどのフロッピー」の必要性だ。たかだか10MBほどの空き容量も、木下くんのノートにはないのか? スワップのたびにハングしそうだ。


連鎖反応 決起

 日本改革会議事務局の大部屋も、今は人で溢(あふ)れている。特に波多初芽の班では、六つの机で六人の職員がそれぞれ資料 の確認を急いでいた。座る場所を失った石田光男は、入り口近くの会議机で二台のパソコンを操っている。班長席の初芽も、銀色 のブラウスの袖(そで)を捲(まく)り上げてキーボードを叩(たた)いていた。(第353回)

 忙しいのは判るが、石田君の「二台のパソコンを操っている」行為にはいったい何の意味が? 産業情報省のマシンは、未だにシングルタスクなのか?これまでにも何度も言っているが。

 松永は、その場を和ますような笑顔でいうと、意外な言葉をつけ加えた。

 「ここに映っているインターネットでは、一時一ドル二百八十円まで下がっていた円相場も二百七十六円に戻しています。株価 も一時千円以上下げたが、四百円ほど戻りました。長谷川さんらの提案は、それなりの効果があったわけですよ」 (第354回)

 「ここに映っているインターネットでは」・・・。まだ言うか、堺屋ちゃん。


連鎖反応 回 天

 五月二十一日に足川義明元外相ら七人が与党を離脱したのを皮切りに、昨日までの離党者は衆院議員二十八人参院議員七人に達 した。そのうち衆院議員二十二人と参院議員四人は、もともと無所属だった衆院議員二人を併せて「新党回天」を結成、三好内閣 の煮え切らない政治姿勢を激しく批判している。 (第358回)

 20年後に結成される新党の名前が、人間魚雷というセンスはいかがなものか? 

 木下はそんな気持ちで小会議室のドアを開いた。そこには、石田光男と黒田幸一(くろだこういち)、去年入省の加藤清司(か とうきよし)の三人が一台のコンピューターを囲んでいた。

 「君たち、こんなところで何してるんだね」

 木下は苛立(いらだ)った声を出した。

 「室長、これ御存知ですか……」

 一瞬のためらいの末、黒田が画面を指差した。そこには、

 「織田改革案の虚構を暴く!」

 と題する文章が映っている。

 「これ、うちの省のホームページじゃないの……」

 木下は右肩についたマークを見て叫んだ。インターネットのホームページは、そこのパスワードを知る者なら何でも書き込める のだ。 (第363回)

 「右肩についたマーク」・・・・・・IEとかネスケのマークしか見えないが。あるいは、情報産業省のページに必ずつけているGIF画像のこととか言っているのか? ウチの「TexT100%」みたいなやつ。怪文書を不法掲載する人間にしては、結構律義やね。

 「インターネットのホームページは、そこのパスワードを知る者なら何でも書き込めるのだ」とは、久々に潤いある表現である。FTPのアクセス管理ってのは、このお役所では誰もやっていないのか? 全く他人のIDとパスワードを盗用してアクセスしたのならばともかくとしても、履歴はちゃんと残るだろうに。

 「それプリントアウトしたら、すぐ削除してくれ」

 木下は腹の底に力を篭めてそう命じた。 (第363回)

 「それより、Save Asコマンドを使って、ローカルに保存しておきましょう」と石田が言った。ソース情報やhtmlの書き方のクセを残していた方が、誰の仕業かを特定するのに役立つからだ。木下は、そんな石田の説明に鼻白む思いがしたが、すぐに指示を改めた。

 木下が産業情報省の前身である郵政省に入省したのは約20年前。ちょうどコンピューターが仕事に普及し始めた頃だ。だが彼は、そうした新しいシステムに関心を示すこともなく、旧態依然としたお役所仕事に埋没して、今日までを過ごしていた。むしろパソコンやインターネットに詳しい人間を、「オタク」呼ばわりしてさげずんできたところがあった。無論、その頃から情報通信分野は郵政省の所轄であったのだが、木下が関心を持っていたのは郵便局の民営化やNTT分離分割など、目の前の権力闘争だけだったのだ。今、まさしく職務の中核に、深くコンピューターが関わってきている。だが、日進月歩する情報通信技術の進歩を20年間も見過ごしてきた木下は、まさにパソエンで得意とする「猿」、50万年の時を超えて突然現代社会に蘇った「北京原人」に等しい。

 「これと同じものが国民生活省や与党のホームページにも出てるんですよ。これは、組織的陰謀です。織田さんを引きずり落と すための……」

 明智が甲高い声でそういった時、向かい側のソファから、前田が電話の結果を報告した。

 「国民生活省では、ホームページから削除する方向で検討するそうです」

 「何を呑気(のんき)な。一分置けば何百人もアプローチするし、プリントアウトもできるんですよ」(第364回)

 ホームページから削除する方向で検討・・・・・・まさに「何を呑気な」である。不正掲載されたものを、何で「検討」の余地があるのか。もっとも、役所のページに1分間に何百人もアプローチするとは思えないけれど。「プリントアウト」されることは全然問題ではない。石田君が同席さえしていれば、やはりこう言うだろう。

 「そんなことよりも、Webページというのは丸ごとコピーできるんです。例えこのページがブリントアウトされたとしても、その後にこの情報が流布するのは、プリントした人間のごくわずかな周囲に限られるでしょう。ですが、このページのコピーが、GeocityやTripodといった、匿名サーバーに掲載されたとすれば、情報産業省や国民生活省のサイトから削除された後でも、いつまでもアクセスできる状態に置かれるんです」そういって石田は、約20年前に、証券スキャンダルで自殺した与党議員のWebページの例を挙げた。

 「どうもこれ、うちの者が絡んでいるみたいです」

木下は、前田総務課長の方に囁(ささや)いた。

 「うん、今も話してたんだが、このパスワードが使えるのは官房の者に限られるとね」(第364回)

 情報産業省では、公開ページのFTPでのアクセス権限を、官房の人間全員に、しかもたった一つのパスワードで与えていたのか? それじゃ、こんなことされるのも当たり前だ。

 木下が応(こた)えると、森蘭子も腰を浮かせて囁いた。

 「オワリコン研究所のコンピューター文体分析でも同じ結果が出ました。これに似た用語を使っている官房発表文章は、調査月 報の概説です」 (第364回)

 コンピューター文体分析・・・とは大袈裟だが、なんだか大した分析はなされていないようだぞ。


連鎖反応 赤いワッペン

 「新党回天は織田派の傀儡(かいらい)、その証拠に新党回天の選挙事務所にはオワリコンの社員が大勢いる」

 これに対するオワリコン開発社長、滝川益一(たきかわますいち)の回答は振るっている。

 「当社のボランティア休暇制度を利用して選挙を手伝っている者は多いと聞いている。どこへ行くかは本人の意思、共産党にも 武田派にもいるはずだ」 (第367回)

 なんで共産党だけ実名・・・というか、20年後まで存続するのはこの政党だけか。

 「電話、はがき、ファックス、Eメール、いろいろあるじゃん。同じ人に何回もやるとかえって嫌がられるのよ。電話は二回、 ファックスは一回、はがきは一通。それも相手の性別年齢別にあったのにするんだから、名簿が確(しっか)りしてないと駄目な のよ」 (第370回)

 Eメールで投票の勧誘が来るのか・・・鬱陶しいなあ。しかし、そのアドレスの持ち主が、その選挙区に居住しているというのは、いったいどうやって確認するのだろう。

 「他所(よそ)は駄目。木下陣営はできるのよ。選挙事務所も通信センターも、電話やメールプリンターが全部コンピューター 制御付きだから」 (第370回)

 コンピューター制御付きの電話というのはCTIのことか? メールプリンターっていうのもさっぱり判らんが。20年も先の選挙運動で、木下陣営にしかそういうものがないというのは驚きではある。

 ケンチローと呼ばれた若者は、自分が着ているのと同じ黄色いジャンパーの入ったビニール袋を二つ差し出した。袋には「帽 子、手袋付き」という文字とオワリコンのマークが描かれている。

 この衣装はもともとパソエン用。特殊塗料がデジタルカメラに反応して、センサーを付けなくともパソエンが演じられるという 代物だ。(第372回)

 第44回の段階で「センサーなんかいらない」とつっこんだが、ようやく認めてもらえたか。しかし衣類に「塗料」はないだろう。「デジタルカメラに反応して」・・・デジカメの定義って何だ?

全員が特殊染料の黄色いジャンパ ーに黄色い帽子、胸や帽子に赤いワッペンを付けている。(第373回)

 と思ったら、翌日には「染料」に直ってるし。


連鎖反応 地滑り

 官房長官のソファに座った明智三郎が、長い巻紙を見せながら訊(たず)ねた。手にしているのは政治情報社のインターネット をプリントアウトしたものだ。(第377回)

 まだ言うか、「政治情報社のインターネット」。しかも長い巻紙。ページプリンタってものの存在を、堺屋センセは知らないのか?


事変 挙国vs.救国

 初芽は名刺を出して頭を下げると、マッチ箱を縦に二つ繋(つな)いだほどの金色の小箱を見せた。

 「これはわが省が委託研究で開発しているガイドホンですが、この実用実験に国会の方々にも参加して頂きたいのです。これは 普通の携帯電話に加えて、言葉で訊ねるとすぐ答える機能を備えています」

 「へえ、それはどういうこと……」 (第389回)

 久々のハイテクは次世代携帯電話・・・だが、「言葉で訊ねるとすぐ答える機能」なるものは、いったい便利なのか?

 「この青いボタンは交通案内、行き先さえ口でいえば、その日の状況に応じて一番いい交通手段を教えてくれます。真ん中の白 いのはイベントガイド、レストランの予約も劇場の前売券購入もできます。右側の赤いのは百科事典、漢字から統計数値まで回答 します。この画面に映像で出るから便利ですよ」

 そんなことをいいながら、初芽の前に出た明智は自ら実演を試みた。青いボタンを押して送話口に

 「ここから羽田空港へ行く一番早い方法は……」

 と囁(ささや)いたのだ。受話器に当たる方からは

 「了解しました、すぐお調べいたします」

 という合成音声が戻って来て約十秒、

 「赤坂から羽田空港なら、タクシーが最も早いでしょう。霞が関から高速に入れば約二十二分です」

 という答えが返って来た。 (第389回)

 交通案内とイベントガイドと辞書しか、二十年後のモバイラーに必要な情報はないのか。機能拡張の際には、その「××色のボタン」とやらを追加せねばならんわけだ。今の携帯電話だって、ダイヤル方式とかいろいろとあるぞ。赤坂〜羽田空港間、タクシーが一番早いなんて、コンピュータに聞かなくてもわかるって。ついでにソレを口で説明されるより、画面表示してもらった方が技術的にも簡単だしわかりやすいぞ。

 「確かに便利だわねえ……」

 田中議員が歓声を上げると、明智は、

 「但(ただ)し問い合わせは一分二百円の有料ですよ」 (第389回)

 ・・・・・・高いって。課金は出来れば「件数」でお願いしたい。


事変 組閣

 「こちらデータ室ですが、ナンバープレートからそのバイクの所有者が分かりました」

 という素人っぽい声が入った。画面の中のリポーターも、官房長室の一同も聞き耳を立てた。

 「その所有者は静岡県在住の筒井慶次さん……」

 テレビからそんな声が流れ出た時、官房長室にも「うへえ」という呻(うめ)きが出た。突然の娘婿の出現に明智が驚きのあま り発したものだ。

 「この方は新党回天から当選した筒井順子(つついじゅんこ)元国民生活省審議官の弟さんですが、職業はコンピューターソフ ト会社の経営だそうです」

 データ室がそこまでいった時

 「分かりましたよ、やっと」

 という堪(たま)りかねたような声が入って、スタジオの尾形記者が映し出された。

 「足川さんはその方を技術サポーターとして、コンピューター通信で組閣してるんです」

 「それじゃあ、インターネット組閣といえますか」 (第394回)

 つまり筒井慶次氏は、首相官邸にバイクでインターネットを持ってきた・・・と? 


事変 夢か幻か

 初芽はにやりとしただけで、

「それよりこれ、どう思います……」

 といいながらパソコンのキーボードをいじった。映し出されたのは赤坂界隈の地図、その上に三つの赤い点がある。二つは重なり合い、一つはそこに近づきつつある。

「ガイドホンの所在地です。一つ目は朝倉さんの秘書、二つ目は浅井政夫さん、新党回天の幹事長ですね。そしてこれは……」(第402回)

 恐いなぁ、ガイドホン持ってると行動は全部筒抜けだ。国民総背番号制よりも問題は大きいと思うが、そこのところを堺屋長官はどう考えているのか。ところで電源切ってたらどうなるのか。

「民治、お前のガイドホン、成子ちゃんにくれたんだってね。喜んでたよ、学校で威張れるって」

 といい出した。それにつられて新宅の健一郎も

「あれ、便利だからね。僕のはグエン君に貸しましたよ、町営ホテルにいた……」(第404回)

 試作の官給品を勝手に貸し出すなよ。

「へえ、グエン君、東京へ来たの……」

 木下が民治に訊ねた時、健一郎が何気なく民治のガイドホンの番号を打ち込んだ。やがて赤い点は四谷三丁目、グエンの点とぴったり重なっている。

「こ、これは何だ……」

 木下は全身の血が逆流する思いでマウスをクリックし、画面の地図を拡大した。映し出されたのは、木下も見覚えのあるシティ・ホテルだ……。(第404回)

 さすがは波多初芽ちゃんに失楽園願望をたくましくしていた木下親父である。娘の私生活覗き見にも便利なガイドホン。プライバシーって何? 余談ながら木下くんが「マウスをクリック」したのは、これが初めてでは? やはりパソコンは、上半身より下半身中心で覚えた方が上達は早い。

「成子、お前、こんなところで……」

 衣服の乱れのない娘の姿に木下は、気が抜けたように呟いた。(第405回)

 終わった後だ。お父さん、安心するのはまだ早い・・・と言うか遅いか。

「八月四日の沖縄行きでは、この自家用機に最新型のF24ジャイロをつける。荒木さんならわかるだろう、最新の早期警戒機にしか付けていない慣性装置だ。これで方向を定めればあとは全自動だよ」(第406回)

 離着陸もか。パイロットも乗ってないのか。


 こうして足川新内閣は総辞職し、新・新党の結党により織田内閣の成立は確実なものとなった。織田の腹心・明智三郎は島根県知事選出馬という、体のいい島流しにされることとなった。何時の間にか波多初芽と石田光男くんは婚約を交わしており、木下はその仲人を頼まれることになった。

 そして、運命の八月四日。

 初芽は「大変」と叫んで走り出していた。靴を脱ぎ捨てフレアスカートを靡かせて、初芽は山王の坂を信じられない速度で駆け抜けた。着いたのは国会裏のマンション、跳び込んだのは機器の詰まった七階の広間だ。

 バシバシッと電源を入れると、いくつもの映像画面が青く光り出す。その一つに飛び付いた初芽が、悲鳴を上げた。

「F24ジャイロが左に三度曲がってる」

「それでは針路が左に曲がって太平洋に出てしまう」

 里村がそう叫んで、短波ラジオを航空管制塔からの周波数に合わせた。そこからは、管制官の必死な声が流れて来た。

「オワリコン一号、応答せよ。貴機は予定コースから外れている。オワリコン一号、応答せよ」(了)(第407回)

 要するに「本能寺」なんだろうけれど・・・。なんか『ワイルド7』(原作)に、こんな話があったなぁ。F24ジャイロという代物は、完全排他で航空機をコントロールしてんのか。現在、航空機に施されている様々な、二重三重の安全対策は、他のコンピュータ技術同様絶滅してしまっているらしい。やはり暗黒の未来だ。

「オワリコン一号、応答せよ」・・・映画化の際には『真由美』みたいな大爆発シーンでエンディングを飾って欲しい。

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