ネットワーク・ソサエティー 駐車場の街

 東京の新聞社や放送局は、地方発のニュースの中から東京ではない物珍しいものだけを取り上げる。このため地方発のニュースは「事件と 事故とスポーツと伝統行事」の四つに偏り、流行や芸術が取り上げられることは滅多にない。地方の新産業や新規事業の話題が全国記事に なることもごく少ない。

 「全国の行政を行う中央官庁の官僚が、東京情報しか見ておらんのでは判断を誤る」

 産業情報大臣の織田信介はそういって、全国9カ所の産業局に、各地方版の目についた記事をインターネットに載せさせ、役人たちにも読む ように勧めた。大抵はコンピューター画面で見れば済むことだが、特に注目すべき記事はプリントアウトして関連部局に配られている。今、波 多初芽が持って来た紙片もその一つだ。(第149回)

 やっとドリーム・チームの仕事に戻った木下室長だが、上司の織田大臣からは、相変わらず訳のわからん指示が出ているようである。「各地方版の目についた記事をインターネットに載せさせ」

 産業情報省で必要な情報は、産業情報省のネットワークに載せれば良いのであって、「インターネットに載せ」る必要なんか全然ない、という事実を、朝日新聞の堺屋ちゃん担当者は、そろそろ御大に教えてあげても良いのではないか?

 で、現在でもその日の・・・例えば朝日新聞の朝刊なんか、インターネットで読めるようになっているのである。事実、私も『平成三十年』のかなりの回は、インターネットの朝日新聞のページで読んでいる。駅の売店で買う新聞の第一優先は、おかげで毎日新聞から朝日新聞に変わったが(笑) 無論、全国紙のみならず、地方紙でサイトを持っている新聞も少なくない。となれば、20年後である。全ての新聞がインターネットに情報提供サイトを持っていると仮定しても全然突飛ではないし、プッシュ技術や検索エンジンの進歩から、必要な個人が、必要な情報を自分の端末に集められるようになっていると考えても不思議ではないし、むしろ自然だ。

 ここで書かれているイメージは、新聞記事をスクラップしてFAXで配信し、課内の人間に回覧してハンコを付かせるという前近代的な作業の、単純な置き換えにすぎない。「全国9ヵ所の産業局」の、これまたスクラップ担当者の選択眼というフィルタに左右されずに、必要な情報を収集出来るということが、インターネットを使うことによる仕事の「革質」なのではないか? あえて堺屋氏による造語を使って表現するなら。

 木下は、紙片の中央にある赤いサインペンの囲みを指差した。『ネットで予約2割引き』という見出しに小さな店舗の写真がついていた。

 「コンビニエンス・チェーンのニチコは、マルイ食品と提携、生鮮食品の予約割引販売を始めた。インターネットで午前中に予約、代金を払い込 めば通常の2割引きになる。

 生鮮食品は、仕入れの2割から4割が売れ残り、廃棄されている。あらかじめ予約を取った分だけを指定の店舗に配送して渡せば無駄がは ぶける分、値下げが可能になる。また、コンビニなどの小規模店でも商品の受け渡しができるので、お客にも便利になるはず(ニチコ広報部)、 という。 (第149回)

 ニチコの発想はなかなかのものと評価してもよいが、なぜ「インターネット」なのか? 電話やFAXでも受け付けた方が、より便利だろう? なにしろ、平成10年2月・・・つまり物語の時点から20年も前に、「発信番号表示サービス」が開始されているというのに。念のために言っておくが、「発信番号表示」は、何もイタズラ電話・迷惑電話防止のためにされるわけではない。発信者の音声と共に、電話番号が「データ」として送信されてくるわけだから、これを商取引に応用しないはずがない。NTT系の信販会社と提携すれば、電話料金に購入代金を上乗せして回収することも可能になるだろう。

 それに受け渡しがコンビニだけというのもどうか? いっそ宅配までしてみては? 完全予約販売によって低減されるコストは、何も売れ残り分だけではない。物流や中間業者のマージンなど、トータル的に抑えられるわけで、それを消費者に還元しようという発想だろう?

 ・・・と、ここまで書けば明らかだが、このサービスは、目新しいものでもなんでもない。20年以上前・・・平成9年の現在から見て20年以上前からキチンと機能している、「生協」がやっていることと全く同じだ。生活者の視点から生活者の政治をシミュレートするつもりなら、奥さんの権限を侵犯して台所に立ってみてはどうか? 堺屋ちゃん。冷蔵庫の中には、 CO-OPとラベルの入った紙パックの牛乳くらいは入っているだろうから。

 大阪ミナミのターミナル難波から、各駅停車でも20分という好位置にもかかわらず、駅前商店街はひどい歯抜け状態。シャッターの錆(さ)び た廃業店舗や間口を詰めた「しもた屋」が目に付く。何よりも多いのは駐車場、多くは無人時間制だ。

 「20年ほど前にはじめて時間制がでけた時は、ガソリンがリッター100円で駐車料金は15分で100円だした。それが今はガソリンが100 0円で駐車料金は10分間100円。物価に比べたらえろう安なっとりま」

 地元商店会会長の田中正三は、そう説明をした。駐車料金の相対的値下がりの背景には、この辺一帯の地価下落がある。昭和末期のバ ブル期には、坪当たり1000万円といわれた駅前商業地が、今は消費者物価が3倍になったにもかかわらず500万円そこそこ。実質では6 分の1に値下がりしたわけだ。 (第152回)

 絶滅寸前の「近郊過疎地」東大阪市の状況説明だ。商店街は半減、土地もほとんど駐車場として遊んでいるらしい。目を覆うばかりの廃れ具合だが、この頃、大阪都心部に通勤している人達は、どの辺りに住んでいるのだろうか?

「上のホールは婦人会の歌や踊りの会と企業の商品説明会みたいな行事がありますけど、大画面テレビで近鉄バファローズの全試合中継 やったら、えろ流行(はや)りましたわ」

 「それじゃ今年は満員だったでしょ、バファローズも優勝争いに加わっていたから」

 木下がそういうと、田中会長は

 「いや、それは四、五年前のことで、今年はやってまへん。それを売り物にしてる喫茶店やパソエン・ルームもでけてますよってに」 (第154回)

 20年後に「街頭テレビ」とは、想像を絶する発想だ。何100チャンネルもやっているという「宇宙放送」はどうなった? 「それを売り物にしてる喫茶店」とは、要するに今で言う「高校野球放映中」とか書いてる喫茶店とか、場外馬券売り場横の一杯飲み屋からの発想か? そんなものが20年後にも「流行る」と本気で思っているのか?

 宮部は枚岡神社も長尾の滝も抜きにして、石切神社のことだけをいった。21世紀に入って17年経った今も、平癒祈願の神頼みは絶えな い。特にこの神社の場合、門前漢方薬店の栄養剤赤まむしと虫下しの人気が高い。科学新薬に抵抗力のある寄生虫が現れ、今や日本人の 22%にも及んでいる。 (第155回)

 「22%」というのは、保有率か、発病率か? で、「科学新薬に抵抗力のある寄生虫」にも、「石切神社」の「虫下し」は霊験あらたかだとでも? 第一、寄生虫なら「科学新薬」云々以前に調理場の衛生の問題ではないのか? で、結局ここの一文で堺屋ちゃんが言いたいことは何なんだ?

 それに比べて、旅館の造りや料理は簡素だった。紫の和服姿の中年女性たちが案内したのは、中型パソエンの付いた20畳ほどの板の 間、食卓の下が掘りごたつ式になった和洋折衷の部屋だ。

 「これなら官官接待と非難されることもあるまい」

 木下は食卓の上に置かれた献立を見て、そう思った。突き出しと「名物生駒の雉子(きじ)料理」、それに天ぷら盛り合わせだけが表示され ている。

 数年前から、またしても官僚に対する接待や贈り物が問題になったため、産業情報省では自治体や民間と会食すると、昼食は5000円、夕 食なら1万円を支払うことになっている。物価が上昇した今では、ファミリー・レストラン並みの金額だが、今日の食事ならその2倍を越えること はないだろう。 (第155回)

 この部分は皮肉かジョークか? これまでの間、木下君と初芽ちゃんは、1時間商店街を散歩して、1時間近所のおっちゃん・おばちゃんとくっちゃべっただけである。で、この後パソエン宴会が延々3時間以上続く。民間企業がこういう「視察」をやったとして、木下君のお仲間の大蔵省国税局は、その費用を「出張経費」と認めてくれるのか? 例えこれが一人たったの2万円弱の食事だったとしても、その費用は近郊過疎化に喘ぐ東大阪市民の税金から支出されている。用意された献立を見て「値踏み」し、「これなら官官接待と非難されることもあるまい」という発想こそが、官僚の勘違いの現れではないのか? ご自慢のバーチャル・ガバメントの「町並み省」でも、やっぱり「接待されたら1万円だけは払う」とか決めているのか?

白い秋 錆びついた世の中

 「それぞれの好みややり方はいえないけど、はっきり困るのは夜の遅いこと。九時頃来て十二時頃までいるんだって」

 「うーん、しかし、あの人、お勤めもあるんだろ」

 「そうね、上野の会計事務所でしょ」

 「じゃあ九時になるよ。七時に事務所出て夕御飯を食べて、松戸まで来れば……」 (第159回)

 「遠い隣人の会」で親の面倒を見てもらっている神谷夫人に対する木下夫妻の愚痴である。先日、用があって常磐線に乗ったが、上野から松戸まではわずかに快速で20分の距離だ。木下夫妻の住む新宿から上野までも、まあ20分そこそこか。片道40分かそこらで、他人に自分の親の面倒を見てもらわないといけないか?

 大臣室のドアを開いた木下和夫は、思わず大声を上げた。薄暗い部屋の正面に黒服に黒頭巾(くろずきん)の織田信介と赤マン トの波多初芽が立っていたからだ。昔懐かしいバットマンと魔女の服装である。

 「あははは、こりゃ成功じゃ。木下悟空様が驚くほどなら成功じゃよ」

 横合いから織田信介の爆笑が聞こえた。正面にあるのは等身大のパソエン画面、脇(わき)にはセンサーを全身につけた織田信 介と波多初芽がいた。

 「いやいや、びっくりさせて悪かった。これはな、うちの会社で開発した最新型のパソエン・ソフト。2人組の演技ができると いうので波多君と試しておったんじゃよ。画面も立体感が増したろうが」 (第162回)

 ・・・人がアクセスできないと思って(このころ、ハードディスクがクラッシュして往生してた)好き勝手やってるなぁ、堺屋ちゃん。「バットマン」を「黒服に黒頭巾」と表現したのは、おそらく世界で最初では。で、隣が「赤マント」の「魔女」・・・「キャット・ウーマン」でも「ポイズン・アイビー」でも「バット・ガール」でもないわけね。ソフトに魅力がないと、3DOやバーチャル・ボーイの二の舞になるぞ、オワリコン。ちゃんとわかってるクリエイターを雇うように。

 「2人組の演技ができる」のが「最新型」ですか。技術の進歩って遅いんですね。しかし、これを「ソフト」でやってしまったというのは凄い。例えるなら、1つしかコントローラーのついていないファミコンを、二人同時で遊べるようにするという改良を、「ソフト」的にやったというのだろ? ソフトとハードの区別って、ちゃんと出来てる? 堺屋ちゃん。

「これを50台ほど寄贈するから、ジェトロの主なオフィスに付けて日本のPRにでも使うて下さい。あとは滝川社長とご相談 下さい」 (第162回)

 1ドル=500円を突破すると見た。

 明智は自らキーボードをいじくって国の財政情報を示すデータを液晶画面に映し出した。(第168回)

 会議室で使われている、埋め込み式液晶画面のコンピュータだ。例によって例のごとくキーボード操作。こういう場合、タッチパネル方式が一番使いやすいと思うのだがどうか?

・・・そして、平成29年11月。ついに我が国は、文明開化の火を手にすることとなる。

白い秋 木枯らしの時節

 木下和夫は首を傾(かし)げた。「総理の息子」足川義明は、ファッションやグルメの通として知られているが、作文や講演は 不得手だ。外務大臣の時には、棒読み答弁と無言握手に終始、外人記者クラブでは「CD―ROM(リード・オンリー・メモリ ー)」

 と呼ばれたものだ。それが今日に限って巧みな比喩(ひゆ)を連発した。 (第169回)

 「CD」は要らないと思うが。

 里村は、無遠慮に手を伸ばして机上のマウスを動かし、コンピューター画面を次に送った。 (第169回)

 ああっ、いつのまに!? Wave2010もついにマウスに対応したのか!! でも、[Space]でもメッセージが送れるとか、右クリックで早送りできるとか・・・そういう「マウス対応」だったりして。はっちゃけあやよさん。

 里村がそういった時、腰のポケットベルがチリチリと鳴り出した。

 「え、十三時、大臣記者会見……」

 ポケットベルを引き出した里村は、その表示板を見て高い声を上げた。 (第170回)

 ・・・でもポケベル使ってるのか。こないだJ-PHONEの人から聞いた「Sky Walker」によれば、携帯電話の「制御信号」(液晶画面にアンテナ立てたりする信号な)に乗せて、128バイトまでの文字を転送することが出来るようになったという。1回10円。携帯の基本料も2千数百円になって、いよいよこれから先、20年もポケベルが生き残れるとは到底思えない時代になっているのだが。

「でも心配は要らないのです。詳しくはこれをご覧下さい」

 足川がそういってDVDの板を見せると

 「足川義明の『日本をこうする』DVD本日発売」

 という文字が現れた。(第173回)

 DVDの板!!(爆) 正確に書くとデジタル・バーサタイル・ディスクの板!! Discってどういう意味か知ってる? 堺屋ちゃん。

 「あの丸商の件、巨額為替損失が漏れたのは、コンピューターに侵入されたからやね」

 里村は木下とは関(かか)わりのないことから入った。

 「へえ、それが本当なら、恐ろしい話だよ」

 木下はそういいながらも、内心では「ありそうなことだ」と思った。数年前には、アメリカで国防総省のコンピューターに侵 入、極秘情報を玩(もてあそ)んでいた学生グループが逮捕された事件があった。日本でも昨年、納税者番号によるデータがダイ レクト・メール業者に流出したことがある。

 「うちの社が知ったのもタレコミだけど、実に詳細な裏付けデータが添付されていたらしいよ」

 里村はそういったあと、声を潜めて続けた。

 「外為取引が分かるぐらいなら、政治献金も総会屋への利益供与も分かってるはずだから、能登社長も退任せざるを得なかった んだよ」 (第178回)

 ネットワーク接続しているコンピュータに、簿外損失や使途不明金の帳簿を載せるバカ企業があるとでも思っているのかい? 例えば山一證券の簿外損失は、社長以下数名の役員しか、その存在を知らなかったらしいが、「丸商」の場合はどうだったというのか? 社長様御自ら、データをインプットしたりしてたわけか? サーバのメンテやバックアップ作業を、社内情報管理部門の目を盗んでコソコソやってたとでも?

「それね、俺(おれ)も今朝から取材してたんだけど、オワリコン開発の広報部では、DVDソフトの宣伝費に10億円ぐらい かけるのは普通というんだね」 (第180回)

 1枚2000円の単価として、宣伝費をペイするためだけで50万枚売らなきゃならん計算だがね、これでは。制作や流通にかかるコストを考えたら、100万枚は売れなきゃ利益が取れないのでは? オワリコン開発のDVD。


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