何もしなかった日本──来年度新政策
木下家のリビングは十二畳、そこにテレビや食器棚からファクス、パソコン、DVDプレーヤーまで並べたのだから誠に窮屈(第3回)
まず驚くのは、20年後の世界で「DVDプレーヤー」が大型家電として扱われていることだ。平成9年の現在でも、パソコンのドライブスロットに収納出来るDVDプレーヤーが普通に存在するというのにだ。電機各社がこぞって開発している「壁掛けテレビ」も、20年経っても実用化されないのか? パソコンが今ほどに巨大であるかどうかも大いに疑問であるが、さらに、そこまでパソコンが普及した社会において、「ファクス」の存在意義はあるのだろうか?
成子は帰国子女枠で中高一貫の私立女子校に入れたが、成績は振るわない。その上、最近は髪をグリーンに染め赤いピアスを付けだし た。二十世紀末ならともかく、規律と協調性が重視される二〇一〇年代の学校では目立ち過ぎる行為だ。(第3回)
いくら20世紀末とはいえ、「髪をグリーンに」染めている女性は例外的な存在だろう。が、この一文が、やがて明らかにされる作者の「若者観」を端的に現しているとは言える。
道を走る自動車の数は減り、形も変わった。ボンネットが短く尻の高いのは油電兼用のハイブリッド・カー、床の高い箱型は電気自動車だ。(第3回)
現在でも実用に足りる電気自動車は存在するが、外見で判別出来るものではない。
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平成9年現在、現存するハイブリッド・カー |
同じく現存する電気自動車 |
何もしなかった日本──元ニュータウン
もともとゴルフは好きでも上手でもない。殊に前田総務課長のようなシングル・プレーヤーと回るのは気が重い。夜の会も特に好きではない が、カラオケや流行のCDパソエン(コンピューター・グラフィック利用の独り芝居)なら自信がある。(第12回)
流行のパソエンとは何か・・・期待して待て。
昭夫は、そういって老眼鏡を掛け直すと、コンピューターのキーボードをポツポツと叩いた。現れたのは文部科学省のホームページ、(第21回)
キーボードでブラウザを起動し、ハイパーリンクをたどるとは渋いじいさんである。なお、今日(平成9年10月7日)現在の進行で、コンピュータを「マウス」その他のポインティング・デバイスで操作する描写は全く出てこない。
何もしなかった日本──自動車
石田がコンピューターのキーボードを操作して、画面にグラフを映し出した。 (第23回)
またキーボード・・・・・・ひょっとしてDOSか?
初芽の言葉に合わせて、石田がキーボードを叩(たた)いて長い数表を出した。実に息の合った共同作業だ。 (略)波多初芽はコンピューター画面の上を指でなでながら説明を続けた。 (第25回)
やはりポインティング・デバイスは存在しないようだ。
何もしなかった日本──織田大臣
長谷川や津田が来れば、賑(にぎ)やかなパソエン大会がはじまるに決まっている。テレビ画面の上で仮装して独り演技が出来るパーソナ ル・エンターテイメントは、カラオケに続く宴席の人気余興だ。自らそのソフトを開発した織田信介は、これが好きで上手だ、といわれている。(第36回)
テレビ画面の上で仮装して一人芝居! 「パーソナル・エンターテイメント」!! 略して「パソエン」(爆発) 筆者はよほどこのシステムが気に入っているらしく、以後も何度も何度も出てくる。その内容へのツッコミは後で書く(実は意外にローテク)として、とりあえず「パソエン」・・・この名前は絶対変だ。パーソナル・コンピュータの略が「パソコン」だからと言っても、「パーソナル」という言葉にコンピュータ的なニュアンスがあるわけではない。
ジャイアンツのユニフォーム姿に変身した津田宗男が、テレビ画面の中でピッチング・フォームを繰り返すのを見ながら、木下和夫はそう思っ た。
パーソナル・エンターテインメント、略してパソエンの発想は、遊園地にある顔の部分だけ穴のあいた写真撮影用の板絵をエレクトロニクス化 したものだ。テレビカメラが頭につけたヘッドホン型センサーで顔の位置と輪郭を計り、手足や肩腰に貼(は)ったボタン型センサーで全身の動 きを読み取る。
青い衝立(ついたて)の前でワイシャツ姿の津田がピッチング・フォームを行うと、横の大画面テレビには、ジャイアンツ選手に変身した津田 が、マウンドの上で投球をやっているように映る。
しかも最近は、手足の動きを二倍まで拡大できる増幅成形装置が付いたので、六十二歳の津田がやっても見事に腕が伸び足が上がる。 (第44回)
今すぐにでも、鎌倉のシネマワールドあたりに登場しそうなアトラクですなぁ。しかし、わざわざ「ヘッドホン型センサー」なんてうざったい物つけなくても、カメラが複数台あれば、立体化は可能だぞ、織田大臣。もちろんボタン型センサーも要らない。「青い衝立」が悲しい。20年後でもブルーバック合成かよ。できれば「大画面テレビ」ではなく、バーチャル・リアリティ的な手法で映像化してほしかったなぁ。増幅成形装置は結構だが「手足の動きを二倍」・・・って何をどう?
織田信介のパソエン演技は最高潮、黒服黒帽姿のフラメンコ・ダンサーからゆかたがけの阿波踊りに、そしてまたフ ラメンコへと早替わりを繰り返しながら、巧妙な身振りと唄でみんなを心から笑わせていた。 (第47回)
トリは発明者の織田大臣。しかし私は、これと同じ趣向を、『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイのコンサートで見たことがある。