希望と期待 「横町の老人国」
「サハリン経由でパイプラインを敷いて、シベリアのガスを輸入する案は何度も検討されたんですが、国内のパイプラインの敷設やガスタンクの建設に、地域住 民の理解が得られそうにないというので実現しておりません。ま、こんなことが、原子力発電の立地難と共に、わが国のエネルギー・コストを引き上げる原因にな っています」 (第252回)
天然ガス輸入のパイプラインを、日本国内に敷設することが出来ない理由を、日本改革会議事務局参事官の竹中半治が説明するくだり。一瞬、説得力のありそうな理由だが、この説通りならば、「原子力発電所」は「立地難」どころではないのではないか。「地域住民の理解が得られ」ないことを理由に、政府は海上ヘリポートの建設を断念したか? ところで「原子力発電の立地難」って何?
地下水脈 元局長の叛乱(はんらん)
これまで米作農業といえば、徳川時代からの労働生産性を無視した一所懸命主義か、近代産業としての農業経営かだが、浮田は
「お金の入るレジャーと割り切っています。どこかに勤めながら、あるいは年金を受けながらライス・ガーデニングを楽しむ。それなら出来高はあまり気にする こともないから、かえって大胆な実験もでき品種改良や耕作術の進歩も起こる」(第262回)
「ライス・ガーデニング」!! 66歳のじいさんが考えついた言葉としては新感覚の言葉だそうだ。しかし、20年後にも本当に流行っているのか、ガーデニング。本場のイギリス人が読めば、「晴耕雨読」のどこがガーデニングなんだと、ジェントルにツッコミ入れられるぞ。この「五反百姓の会」には、年金受給者を中心に5000人もの会員がいるという。0.5ヘクタールの農地とはいえ、土地の取得費用から農機具の購入費まで、セカンドビジネスとしてはイニシャル・コストは相当のものになるのではないか。米の輸入自由化も実現しているだろうし、流通販路を持たない素人が、「お金の入るレジャー」とするにはリスクが大きすぎるように思う。「5年前まで農林環境省の局長をしていた」九州某市の市長が呼びかけ人というのも、むしろ胡散臭いぞ。国会議員が理事をしていた「オレンジ共済」の例もあるしな。どことなく「観音竹商法」が思い出されるのは、私だけではあるまい。
地下水脈 企業破綻(はたん)
「木下さん、これ知ってますか」
まず明智が出したのは新聞記事。九州産業局からのEメールをプリントアウトしたものだ。 (第265回)
私の記憶が正しければ、織田大臣は「全国9カ所の産業局に、各地方版の目についた記事をインターネットに載せさせ(第149回)」ているのではなかったか? いつのまにEメールで発信するようになったんだ? で、九州産業局の担当者は、なんで企画室長の木下には送らなかったのか? ひょっとして木下君は、省内メーリングリストには加入していないのか?
「これなんか、どうでしょう」
といって一枚紙を差し出した。コンピューター好きの石田には珍しく、鉛筆手書きの文書だ。
「へえ、石田君、こんなの用意していたの……」
木下は読む前に驚き叫んだ。(第266回)
仕事でコンピュータを活用している人間に対して、「コンピューター好き」で片づけてしまう感覚には恐れ入る。20年先まで、こんなのが管理職やっているのか。もっとも、石田君が差し出した「手書きの文書」は、鉛筆書きではなく携帯情報ツールの「手書きメモ」機能を使って作成した文書のプリントアウトなのだが、そんなものは木下君も堺屋ちゃんも知らないので黙っておこう。石田君だって、そんなものをわざわざプリントアウトしたくはないのだが、液晶画面のまま見せて、取り上げられていろいろ弄りまわされた挙げ句、中の大切なデータが壊されてしまった苦い経験があるのだ。
「室長、お電話ですよ、平手(ひらて)総務課長から」 (第267回)
20年も先の話なんだから、コードレスの内線電話機(兼PHS)くらい持ち歩いてくれよ、木下室長。
そんな思いが木下の動きを鈍らせた。コンピューターの電源を切ったり机の上を片付けたり、わざとぐずぐずした。結果として は、これがよかったのかも知れない。木下が部屋を出て総務課長室へ向かう廊下に大臣秘書官付の森蘭子(もりらんこ)が待ち構 えていて、
「これ……」
と紙片を渡した。
「これ、何……」
木下はそういいかけたが、紙片を見て言葉を呑み込んだ。Eメールをプリント・アウトした紙には、
「これからの話は聞くだけにして下さい」
とあり、その下に子犬のハッチー・マークが付いていた。波多初芽(はたはつめ)からの緊急メッセージだ。 (第267回)
引用が長いのには訳がある。ちょっと呼ばれたぐらいで「コンピューターの電源を切ったり」しないでほしい、というのは軽いジャブ。その後の展開を注意深く読んで欲しい。
そう。
初芽ちゃんは、なんで木下君宛ての緊急メッセージを、森蘭ちゃんのアドレスに発信したのだ? もしかすると木下室長には、本当にメールアドレスが割り当てられていないのかもしれない。
大臣官房企画室に戻った木下和夫はまず、大手商社「丸商」のMIC担、今井久宗(いまいひさむね)の携帯電話を呼び出し た。「神出鬼没」のMIC担を掴(つか)まえるには、これが一番だ。今井ほどの古株になると、曜日ごとに電話器を替え親しい 者しか分からなくしている。
「ああ、木下さん。今井さんはね、歯医者に行ってるから掛け直してくれますか。例の歯医者に」
今井本人らしい声がそういった。
「え、今井さんも歯医者……」
木下は素(す)っ頓狂(とんきょう)な声を上げたが、すぐに事情を察した。歯医者は巧みな隠語、実は今井も丹羽や初芽と共 に織田信介の事務所の一つに居るのだ。敢(あ)えて掛け直しを求めたのは、無線では盗聴され易(やす)いからだ。このことを 知らせるのが「例の」の一言。木下も、今井のかかりつけの歯医者までは知らない。
木下は手帳を繰って織田信介のオワリコン内の事務所に電話した。案の定、そこに今井はいた。 (第271回)
携帯電話の方が一般加入電話よりも「盗聴され易い」だって!? ひょっとして堺屋ちゃんは、線がないというだけで、携帯電話と「コードレス電話」を混同していないか? 第一、本気で盗聴を考えている人間なら、飛んでる電波を捕まえて、デジタル信号をデコードしよう・・・なんていう悠長な方法は取らないよ。それよりも「固定式電話」の近くにマイクを設置するのが一般的な方法だよなあ。
地下水脈 バス座会
「ここはわが社、いやオワリコン社のパソエン・ソフトを作るスタジオでな、今度、木下さんに孫悟空の模範演技をやってもら おうと思うとるんだよ」
赤い革ジャンパーに編み上げ靴という出で立ちの織田信介は、冗談とも本気とも区別のつかない表情でいいながら、木下を奥の 一角に連れ込んだ。そこには朱塗りの柱と金竜のついた御殿が造ってある。
「分かるだろう、これは金角銀角の御殿、孫悟空が暴れ込んで退治する悪魔大王どもの棲(すみか)じゃよ」(第273回)
そのくらいCGで作ってくれよ。
各人の座席の前には横長の液晶画面があり、左側には話者の顔が、右側にはその言葉を日本語に訳した文字が流れていた。
コンピューターによる自動翻訳装置だが、これを作動させるためには、コンピューターの認識できる明確な発音発声のできる 「同国語通訳」がいる。初芽や筒井より先に下の事務スペースに入っていた女性がそれだろう。もちろんイヤホーンをつければ、 コンピューター発声の日本語も聞ける。 (第275回)
全然進歩がない、と思っていると突然現われる『ドラえもん』センスの飛躍しすぎハイパー・テクノロジー。今回は「ほんやくコンニャク」だ。「横長の液晶画面」の左右に映るという説明は、堺屋ちゃんが未だ「ウィンドゥ」というものをご存知ない証左。「同国語通訳」とは恐れ入る。いったい何のための「自動翻訳装置」なんだい?
筒井は受注会社の経営者ながら、荒木常務か らコンピューターパスワードを与えられているので、ニッポン自動車の経営データにアプローチできるのだ。(第279回)
「コンピューターパスワードを与えられている」ぅ〜っ!! コンピューターパスワードって、いったい何? この語彙が正しいなら、キャッシュカードの暗証番号は「銀行パスワード」だねっ。コンピューターに打ち込むパスワードだから「コンピューターパスワード」・・・見たままやねぇ。「ガンダム」に感化されて生まれて始めて書くヘボいSF小説を同人誌に発表している中坊かね、君は。志茂田景樹でも、もうちょっとはマシな日本語を使うぞ。もしも朝日新聞堺屋番の方が見ているなら、伝えてやってくれたまえ。それは普通「アクセス権限を与えられている」と表現すべきモノだと。
地下水脈 波乱の芽
「レーシングカーの方は前二人後ろ一人の三人乗りで、時速百六十キロまで出ますが、実は電気自動車です。バッテリー容量は 四十キロ分しかありません」
「へえ、あれ電気自動車ですか……」
木下は快音を轟(とどろ)かせて窓の下を走るレーシングカーの群を指差した。
「音はコンピューターで別に出してるんですよ」 (第282回)
別にコンピュータを使わなくても、音は別に出せると思うが。バイクやRV車が、「爆音を轟かせ」ないと感じが出ないという感覚が、夢を忘れた古い地球人である。
「そうですよ。長さ千二百メートル。世界一長い屋内スタジオですからね。世界中からカーアクションやコマーシャルの撮影隊 が来るんですよ」
「なるほど、ものには使い道があるものですね」 (第283回)
長さ1200メートルの屋内スタジオを「カーアクション」専用にしか使わないという貧困な発想に、オワリコン社の限界を見た気がする。
銀色のスーパーマン・スタイルの波多初芽だ。 (第283回)
日本一コスプレ好きの経済小説家か、堺屋ちゃんは。「銀色のスーパーマン」というのがさっぱりわからんが、あるいは東映の「アイアン・シャープ」なのかもしれん。
地下水脈 清談と謀議
フロイドはそういったあとで、膝(ひざ)の上のキーボードをいじくって、いくつもの数字を並べた。(第293回)
うわぁ。読むだけで肩が凝る。20年後にラップトップかい。ところでまたキーボードだけれど、平成三十年頃のキーボードでも、今と同じように膝の上に乗るほどの大きさ・・・すなわち101個なり106個なりのキーが必要だと思っている?