面接の星人
プライバシー保護のため、音声は変えてあります
何度も書くのでうるさいかもしれないが、私の本業は人事担当サラリーマンである。そういうわけで初夏のこの時期は、毎年、学生くんたちとの面接に追われる。
率直に書くが、面接で実りのある会話の出来る学生くんは、全体の1割程度でしかない。私もたいがいスーダラな学生時代を送った挙げ句に留年までしたが、就職活動のときには、もうちょっとマシなことを言っていたと思うがなぁ。
今年もこれまで200人ばかり、玉石混淆の第1次面接をこなしてきたが、ブチ切れそうになった学生くんも多かった。ひどかった実例を挙げると、
・来ない学生くん
面接のアポを入れたがダブル・ブッキングして、結局ブッチされるというケースは多い。そこはそれ会社と学生との駆け引きなので致し方ないのだが、この学生くんは違う。予約時刻の5分前に電話を入れてきて、「今日は行けなくなりました」とおっしゃる。
「何で?」
「自分は体育会なんで、今日、どうしても抜けられない大事な試合が入りまして。また別の日にしてもらえませんか」
5分前に突然大事な試合が入るのか? 体育会では。しかも彼は、ご丁寧にも3回これを繰り返したのである。「もう来なくていいよ」と言った私を誰が責められようか。
・何しに来たかわからない学生くん
10分遅刻してきた彼は、そのことを詫びるでもなく、如何に自分が有能な人材であるかを雄弁に主張する。立て板に水、その語り口に澱みはないのだが。
「・・・・というわけで、私は御社でぜひ、新製品開発に携わりたいと思います。また、国内だけでは視野が狭まりますから、海外勤務も希望します」
「・・・・・・開発って言うけど、君、文系では?」
「そうです。でも、教わっていけばきっと出来ます」
「実験とか出来るの?」
「今は出来ません。でも、教われば出来るようになります」
「ウチ、基本的に技術職は理系の院卒なんだけど」
「大丈夫です。私には独創的な発想がありますから」
「はぁ・・・・・・。海外勤務希望というけれど、英語は出来るの?」
「カタコトなら話せます」
「カタコトじゃ困るんだけれど」
「教われば話せるようになります」
何だかわからないが、「教えてもらう」ことに異様な情熱を傾けている彼である。専門学科卒を押しのけて彼を採用する意図がさっぱり分からないので、その「独創的な発想」とやらを確認すべく、じゃあ、例えばどんな製品を作ればいいのかと尋ねるが、返ってくるのはトンチンカンな、ウチが扱っていないどころかウチの業界にカスリもしない製品開発の答え。例えるなら日産自動車受験に行って「世界一おいしい食パンを作りたい」というような内容だ。
「・・・・・・君、ウチが何してる会社か、知ってる?」
「詳しくは知りません」
「資料、送ったでしょ?」
「まだ、ちゃんとは読んでません」
「で、何で採用試験、申し込んできたの?」
「御社がどういう事業をしているのか、面接で教えてもらえると思いましたので、資料は読んでません」
何だか落語みたいなオチである。
他にも
「自分は体育会っすから礼儀にはうるさいです」と、肩肘付きながら喋る学生くんとか、
「私は飲食店のアルバイトをして、接客について学びました」と言いながら「知らない人と喋るのは苦手」とか、
「日本中を旅行して知らない土地で初めての人とのふれあいを感じるのが楽しいです」って言ってるのに「配属先は住み慣れた関西じゃなきゃイヤです」とか。
『面接の達人』という本が世の中にはある。「マニュアル」というほど生易しい内容ではないが、マトモに喋れないなら、こういう本なり、もっと安直な面接マニュアルなりを読んでから来いっていうのな。「テニス・サークルで部長をしてリーダーシップあります」「イベント・サークルやってましたから人脈に自信あります」・・・・・・ただでさえ忙しいんだから、私の時間を無駄に使わせるな。
と、ここまでが前置き。
そんな不毛の日々にあって、一服の清涼剤のようなナイスガイな学生くんが現われた。彼の名はT、某理系私大に通う4年生である。
人それぞれの流儀があるが、私は面接では趣味の話から入る。とにかく喋ってもらわないと話にならないので、話しやすい話題を振って、会話にリズムと勢いをつけるためだ。
最初は彼もおとなしかった。趣味はパソコンだという。人並みに手に職つけようとワードやエクセルを扱っていたが、やがて飽きて、そのPC-9821はゲーム専用機になってしまったそうだ。
「はじめはただ、ゲームを遊んでいただけだったのですが、そのうちゲームを作っているプログラムそのものに興味を持ち始めまして」好きな分野の話題になって、彼の口も次第に滑り出す。「ゲームには改造コードというのがあって、そういうものばかりを載せている雑誌がありまして、それを買って勉強に使いました」
「その雑誌というのは・・・・・・ひょっとして『ゲームラボ』のこと?」
その時の彼の目の輝きを私は忘れない。企業の人事担当者なんて、普通、旧『バッ活』なんかは知らんよ、そりゃ。一瞬、彼も見透かされたと動揺したに違いない。だが、彼と私に流れるB型の遺伝子が、この瞬間に一気にシンクロした。そう、彼の目は、恐い人事担当者を見る目つきから、オタク仲間を見る視線へと変わってしまったのだ。
「『ゲームラボ』の改造コードも、肝心なところは隠してあるんですよ。だからヒントを求めてネットに入ってBBSの書き込み読んだり」
「エミュレーターのページとかも行ってるんやろ」
面接でも何でもない会話が続く。ゲームではRPGやシミュレーションが好きだとか。アルバイトの話になって、中古ゲームショップでバイトしていたことが判明。
「商品研究ってことで、店長がファミ通買ってくれるんですよ」
企業面接で「ファミ通」だぞ。そんな通な略称で喋ってどうする?
「しかし、中古ソフトもややこしくなってるよな。メーカーからはバッシングされてるし」
「私も好きなメーカーのゲームは、新品で買うようにしてます。アリスソフトとか」
アリスソフトですかぁ!! ってことは「好きなRPGやシミュレーション」ってぇのは、「ランス」だったり「鬼畜王ランス」だったりするわけか? Tぃ〜〜〜っ!!
「アリスソフトって、ファンクラブ会員じゃないと買えないゲームもあるよな」
「入るつもりはしてるんですけど、会費振り込みに行く暇がなくて」
プログラムの勉強も始めた彼は、ホントはゲーム業界に勤めたいらしい。
「でも、ゲーム・プログラマって実力主義じゃないですか。知識も経験もない私が行っても、使い物にならないですよ」
「だから、普通のコンピュータ関連に入ればいいんじゃないか? プログラマって慢性的に不足してるし。未経験者歓迎ってところも多い。そこでノウハウだけつけて転職するってのもテだと思うよ」
一応、型通りの面接事項もこなしたが、彼は既に別の夢をみつけたし、私も彼がウチの会社に入って幸せだとは思えない。bazil@lyra.vega.or.jpのアドレスを教えたが、
「ゲーム業界に進む希望が持てました」
と喜んでいた。ちなみに、この面接のリプレイを私のページに書くことは、Tくんにも了解を得ている。恐ろしいことに彼の実家はすぐ近くなので、妙な付き合いが始まるかも知れない。
ちなみに彼が残した適性検査の波形は、今までに見たこともない特殊なものだった。適性検査というものが、優秀な人材を選び出す手段ではなく、無難ではない人材を振るい落とす手段だということを、改めて認識した。