宇は宇宙船の宇
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宇治虫噛み潰し隊TM
あじさいの花
京阪宇治駅は、SFである。
駅舎を支える鉄柱には、ラジエータの如く薄い円盤が同心円状に配置され、その基底部にからは謎の鉄パイプが伸びる。改札口をはじめ、駅への出入りにはいくつもの円形の開口部をくぐらなければならない。思うにこれは、悪意を抱くテロ観光客のボディ・チェックのためであろうか。まだ工事中だが、外観はコンクリート打ちっぱなし。SFである。紛れもなく。これは90年代日本の建築センスでは、とても作り得ない代物だ。
でも、駅を出ると迎えてくれるのは、平等院鳳凰堂を象ったNTTの公衆電話ボックス。ますますセンスは宇宙。考えてみれば宇治の宇は宇宙の宇、すなわち宇治とは「宇宙を治める」という意味ではないのか。先ごろ国連の世界文化遺産に指定された平等院の鳳凰堂、これとて元はと言えば藤原道長の別邸。道長の代表的な歌に
この世をば我が世とぞ思う 望月の欠けたることもなしと思えば
この歌意に、銀河皇帝の心意気を感じることは不可能ではあるまい。もう一つ付け加えるなら、今回の目的地である三室戸寺へ、路線バスで行けば運賃150円なのに、臨時直通バスでは160円。宇宙人の陰謀に違いない。
我々奈良県人にとって、宇治は極めて印象の悪い土地である。忘れもしない、小学4年生の時の社会科の副読本「郷土の暮らし」。宇治といえば、全国的に有名な茶所であるが、奈良県も実は、茶粥1点でのみ有名な茶所である。社会科の時間に、「奈良県人に胃がんが多いのは、茶粥を主食にしているからだ」と教えられた。私は奈良で生まれ育ったが、30年近い人生の内で茶粥を口にしたことなど一度あるかないかである。だが、学校で教える以上、それは正しいのだ、きっと。胃がんの恐怖に脅えつつ・・・・・・そうそう、宇治の話でしたな。で、奈良が茶所だと言うが、宇治茶はよく見るけど大和茶なんか、ほとんど見たことないぞ、という児童の質問に、先生は。
宇治茶として売られているお茶のほとんどは、実は中味は大和茶なのです。
大和茶は知名度が低いので宇治茶として売られており、実際には
宇治ではほとんどお茶は取れません。
学校で先生が言ってたんだから、絶対ホントだよな。
さて、今回の宇治紀行の目的は、三室戸寺のあじさいを愛でに行くことであった。三室戸寺とは、今から約1,200年前の宝亀元年、光仁天皇の勅願により創建された本山修験宗の別格本山であり、西国観音霊場の第十番札所でもある。五千坪の大庭園は枯山水・池泉・広庭からなり、6月には七千株のあじさいが美しい彩りを・・・・・・などと拝観のしおりに書いてあるようなことを棒読みで考えつつ臨時直通バスに揺られていると、同行いつものけいちゃんが叫ぶ。
「あっ! スペースシャトルが!!」
・・・・・・路肩に乗り捨ててあるNASAのスペース・シャトル・オービター。さすが宇治、さすが宇宙。
三室戸寺につき、あじさいを見る。よく晴れていて、NHKも取材に来ていたが、肝心のあじさいは暑さでぐったりしている。水やれよ、寺。まあ、観光客もいっぱいだったのだが、ここに一人、高鳴きする孤高の鶯が。あじさいの季節に鶯もないよなぁ、テープじゃないのか、あれ、などと思って庭園を巡り、声のしたあたりの梢を見あげる。別にスピーカーらしいものは見当たらず、目を反らすと「ほ〜っほけきょっ」。
見上げると止む声。視線を外すと再び鳴く。ひねた鶯である。仕方なく、声を静め、視線を外す。待つことしばらく。
「ほ〜〜〜〜〜」
その瞬間、我々はガバッと声のする梢を見上げる!
「ほけっ!」
よくわからないが勝利した我々は、庭園を後にしてバス乗り場へと向かったのであった。
帰りのバス、最後尾の5人がけのシートに席を取る。やや混んできた頃に2人連れのおばちゃん。向かって左にわしら、右側に別のカップル、2×2で4人埋まっており、残る座席は中央の一人分・・・果たして、2人組の一人が席を陣取り、私との隙間を指差して
「ほら、あんた、ここ座らせてもらいや」
・・・・・・幅7センチの隙間やぞ。
バスは発車し、もと来た道を駅へと急ぐ。乗り捨てスペースシャトルの側を通りすぎた頃、
「ほら、ここ、座らせてもらいて」
いや、だから、おばちゃんなぁ、そら無理やて。だってそこの幅はなぁ・・・・・・わお!!
25センチくらいに広がっとるやんけ!!
ほな座らせてもらいましょかどっこいしょ、と、立ってたおばちゃんが座る。いったい何が起こってん!? バスを降りる際に、「エラいすんませんでしたなぁ」と、反対側のカップルにだけ、声をかけておばちゃん星人は降りていったが、確かに18センチも領土拡大する際には、よほど失礼な行為に及んだに違いない。
駅前で茶だんごを食って「源氏ろまん街道」なる恥ずかしい道を行き、世界文化遺産に選ばれた宇治上神社を見学・・・・・・と思ったら単なる宇治神社だったので、さらに先を行って宇治上神社に今度こそ詣でて宇治川に戻る。
十三重塔のある中島公園では、なんかのイベントをやっていて、それはそれで別に結構なのだが、マーチング・バンドが「荒城の月」とか「ふるさと」とか海ゆかばみたいな讃美歌とか、とにかく暗いチョイスの曲ばかり演奏するので気が滅入る。イベントの看板見なければ、海軍式追悼式か何かかと思ったぞ。
平等院は混んでいるので諦めて、川沿いの宇治市観光センターに入る。万福寺の普茶料理のサンプルが展示されていたが、精進料理のはずが、何故か「鮭の切り身」なんかが乗っていてちょっと苦い。
なんとか後半は平穏に過ごせたと思い、京阪SF宇治駅に戻ると、なんとおばちゃん星人が!! 中書島での乗り換えでも、同じ電車に乗ってくるぞ、おばちゃん星人。やはり奴等は宇宙人で、我々の動きを監視していたのか!? 奈良県出身者である私の行動を!!
永遠の謎を秘めて、おばちゃん星人たちは四条の雑踏に消えていったのであった。途中で降りたのかもしれんが。